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(物語) 逆境を乗り越えて

その時、買収提案を受けていた取締役の男性は男に向かってこう言った。

「みんなお金のためだけに働いているんじゃない。仕事のやりがいや夢、いろんな目的を持って働いているんだ」 

それに対して男は冷たくこう言い放った。

「みんなお金のために働いているんでしょ?あなただって、無給でボランテイアで働けと言われたら働かないはずだ」

その取締役は絶望的な気持ちになったと振り返っている。「あいつらは金に魂を売ったんだ。こんな企業がずっと続く訳がない。」 冷たく言い放った男の名を、堀江貴文といった。

堀江貴文は、東京大学在学時に「オン・ザ・エッチ」を起業し、その後度重なる企業の買収を重ね急成長を遂げていった。その買収された企業の一つが「ライブドア」である。さらにプロ野球近鉄バッファローズの身売り騒動では買収に名乗りを上げ、その名を世に知らしめた。多くの人が日本を変えるのは堀江だと称えた。その秘書とともにマスコミに盛んに取り上げられていった。しかし実際の成長は行き詰まりを見せていた。堀江やライブドア経営陣が思いついた策。それは、最先端の金融工学を駆使した様々なインチキ錬金術だった。

その一例がMoving Strike Compatible Bond(MSCB 転換価額修正条項付き転換社債型新株予約権付社債)と呼ばれるものだ。MSCBとは、簡単に言えば証券会社などが行う「カラ売り」を利用した金融商法である。時価発行増資が難しい企業でも、このMSCBを使えば資金調達が可能だった。しかし、MSBCは株式の追加発行が容易にできるので、既存の株の価値は希釈してしまう。この頃堀江が盛んに唱えていたのは株主の重視だった。多くの人が堀江を支持したのは、この考え方に賛同したからだろう。しかしMSCBの発行が如実に物語っているように、その実態はかけ離れたものだった。さらに株式の100分割、時間外取引を利用したニッポン放送株の取得など、ありとあらゆる手段を使ってライブドアは業績があたかも伸びているように見せかけていた。

2006年1月16日。東京の六本木ヒルズに数台の車が乗りつけた。乗っていたのは東京地検の検事達。向かう先はライブドア本社。強制捜査の始まりは、時代の寵児ともてはやされていた堀江の凋落の始まりを意味していた。

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あの頃を、ライブドアネットサービス事業部システム開発グループ(当時)の谷口公一さんは、こう振り返る。「あの事件でマスコミからライブドアの全てが虚業だと言われました。そして技術がないと。一番ひどかったのはワイドショーのコメンテーターでしたね」

堀江の逮捕騒動の時、ポータルサイトlivedoorのニュース欄にはこう書かれていた。

「当社にとって不利益なニュースであっても、公正に情報を提供します」

ライブドアのシステムは、オペレーティング・システム(OS)から開発環境まで、オープンソース・ソフトウェアと呼ばれる、ソースコードが開示されているソフトウエアをベースに構築されている。谷口さんはライブドアの魅力を、滝のようにログが流れるサービスを自分の力で作れること、と語っている。オープンソースは、高度なソフトウエア技術力を要する。ライブドアに決して技術力がない訳ではないのだ。その証拠に、強制捜査の当日、ポータルサイトにアクセスが殺到してもシステムは落ちなかった。谷口さんは仲間達にこんな時期だからこそ頑張ろう、みんなで励まし合って困難を乗り越えて行こう、と優しく声をかけていった。技術者も一般社員も、力を合わせあった。

働くことはお金のためと言い放った男が作った会社は、お金よりももっと大切なもののために働いている人達によって支えられ、その最も困難な時期を乗り越えた。


2009年6月6日現在。ポータルサイト「livedoor」は、順調に稼動している。

ライブドア
http://www.livedoor.com/

(参考文献)
こんな時だからこそ安定したサービスを」――ライブドアの技術者魂
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0602/07/news066.html

「週間東洋経済」(東洋経済新聞社)2006年2月4日号 pp16-19、pp32-51

テーマ : ちょっといい話 - ジャンル : ブログ

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