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(物語) 「ドラえもんの最終話」と著作権

2005年、漫画家を目指していた田嶋・T・安恵氏は、ある同人誌を発行した。その同人誌は、広く世に知られている「ドラえもんの最終話」を元にしたものだった。テレビ朝日系列のアニメ「ドラえもん」の声優が、老齢のために交代することになった時のことである。

同人誌は全14ページで構成され、藤子・F・不二雄著作の「ドラえもん」(てんとう虫コミックス)に酷似した包装がなされ、その画調は本物と間違う人も多かった。この漫画はネットでも公開され、瞬く間にその存在は広がっていった。同人誌では異例の約13000部を売り上げたと言われている。

「ドラえもん」の著作権を所有する小学館と藤子プロダクションは当初黙認していたが、小学館にも問い合わせが寄せられ、ネットオークションで高値(あるオークションサイトでは、15000円で落札されていた)で取引されるなど、その反響は次第に大きくなっていった。

2007年5月、小学館総務局知的財産管理課は、田嶋氏に著作権侵害を通知、「ドラえもんの最終話」の販売中止と回収、Web掲載の中止と謝罪、売上の返還を求めた。これ対して田嶋氏は素直に侵害を認め、全面的に小学館の主張を受け入れた。

藤子プロの伊藤善章社長は、藤子先生の世界観に基づく作品を第三者が勝手に変えて公にするのは問題で田嶋氏の作品は許容範囲を超えたものだ、と話している。また小学館では 「ドラえもん」には最終話などなく、もしあるとしてもそれは故藤本先生の胸の中にだけあるのでしょう、とコメントしている。

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田嶋氏の行為は著作権法の何の違反になるのだろうか?

(著作人格権関係)
①第18条(公表権)
・未公表の作品を世の中に発表、提示する権利。

②第19条(氏名表示権)
・作品に自分の氏名を付ける権利

③第20条(同一性保持権)
・作品の同一性、構成、ストーリーを決定する権利。第三者による変更、切除その他の改変を拒否できる権利。
 
(著作財産権関係)
④第21条 (複製権)
・著作物を複製する権利。

⑤第23条 (公衆送信権)
・著作物を公衆送信(インターネットやパソコン通信等の自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化も含まれる)を行う権利。
・公衆送信される著作物を受信装置を用いて、世間に伝達する権利。

⑥第27条 (翻訳権、翻案権等)
・著作物の翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、その他翻案する権利。

⑦第28条 (二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
・二次的著作物の利用に関する二次的著作物の原著作者の権利

さらにてんとう虫コミックスに酷似した包装は、不当競争防止法違反も疑われる。

⑧第2条 商品混同行為

結論から言うと、このうち、同一性保持権、翻案権と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の侵害が主たる著作権侵害の根拠となるだろう。 

ウイキペデイアを調べると、「小学館の対応は、田嶋個人の問題にとどまらず、二次創作物への対応の先例として、大きな影響を与える可能性がある。なお、著作権法上、『絵』の著作権は保護されているが、『キャラクターの性格』には著作権が存在しないという「ポパイ・ネクタイ事件」のような過去の判例もあり、実質、勝手な続篇製作や最終回などは本質的には問題がないため、こういった事例が今後同人誌などでどのように扱われるかが注目されている。前述の「ポパイ・ネクタイ事件」は1997年に最高裁まで争い、結果的に「漫画のキャラクターは、漫画の著作物から独立して保護される著作性は無い」としている。つまり、ポパイやドラえもんのような同じキャラクターが一定の役割、絵柄で書かれている『一話完結』の漫画作品はそれらのキャラクターの登場したそれぞれの漫画が著作物となり、具体的な漫画を離れてキャラクターのみに著作性を問うことはできないということである。」
(引用) Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93%E6%9C%80%E7%B5%82%E8%A9%B1%E5%90%8C%E4%BA%BA%E8%AA%8C%E5%95%8F%E9%A1%8C

「ポパイ・ネクタイ事件」とは、アメリカの漫画ポパイの絵柄を、大阪の会社が勝手にネクタイに絵柄を印刷して販売、これをポパイの原著作者キング・フィーチャーズ・シンジケート・シンジケート・インコーポレーテッド社およびその日本法人が差し止め請求をした事件である。

裁判所 
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25492&hanreiKbn=01

判決 全文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B41FEE4CBEB3754249256A8500311DAE.pdf

知的財産法(朝日大学・法学部,大阪教育大学・教育学部,奈良女子大学・理学部)
講義ノート 第9講: 創作的表現の保護
http://www.sekidou.com/law/lives/ip/09.shtml

Wikiの説明には問題がある。一番問題なのは「勝手な続篇製作や最終回などは本質的には問題がない」としている点だが、この主張には日本国著作権法第20条の同一性保持権、第27条「翻案権」(原作を元に新たに創作すること)および同法28条の「第二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」がまったく無視されている。

ポパイ・ネクタイ事件の場合、ネクタイに描かれた絵柄と法人著作の保護期間が争点になった。これに対し、「ドラえもんの最終話」は単なる絵柄でなく全14ページのストーリーであること、「ドラえもん」の原作が藤子・F・不二夫という個人の漫画家が描いた個人著作であるという点に違いがある。

1997年の東京高裁の判決は、確かに漫画のキャラクターの著作性を否定している。しかし理由2で「このような後続の連載漫画においては、後続の漫画は先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公をはじめとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付すとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが普通であって、このような場合には、後続の漫画は先行する漫画を翻案したものであるということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される」とはっきり述べている。「ドラえもんの最終話」はここでいう後続漫画に該当する。この判決から、田嶋氏の翻案権の侵害と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の侵害が推定される。

さらに「ドラえもん」は、1969年に連載が開始された藤子・F・不二雄(本名藤本弘)先生という個人の著作物であり、藤本先生がお亡くなりになった1996年9月23日から起算して50年間、つまり2046年9月22日まではその著作権は存続する。一方、法人著作であったポパイの場合、1929年が起算日で、著作権侵害の争点になっている期日には既にその著作権が消滅していた。

上記から、田嶋氏の著作権侵害は明確である。

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別の疑問がある。この「ドラえもんの最終話」はなぜこれほど多くの人の心を魅きつけたのだろう?

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その日も、のび太は泣きながらドラえもんの所へ駆け込んできた。しかし、ドラえもんは突然動かなくなってしまう。困ったのび太は「タイムテレビ」を使って未来の世界にいるドラミに連絡を取る。ドラミはバッテリー切れではないかと指摘する。だが深刻なことに、バッテリーを交換してしまうと今までの全ての記憶が消えてしまうというのだ。ドラえもんとのび太が共に過ごした思い出。その全てが消えてしまう・・・

タイムテレビを切ったのび太は、部屋で佇んでいた。動かないドラえもんに向かって話しかける。

「ねえ、初めてあった時のこと覚えてる?いきなりびっくりしたなあ」
「いろんなところへ行ったよなあ。未来、過去、不思議なところ」
「いつもいじめられてた時自分のことのように思ってくれて。お礼は言っなかったけど、本当はうれしかったんだよ」
「本気で取っ組み合いの喧嘩をしたよね。でもその数だけ仲直りしたんだよね」
「何か言ってよ、ドラえもん・・・」

ドラえもんは動かない。そしてのび太は決意をする。
「ぼくが・・・」

その日を境にのび太は変わった。勉強に励み、いつしか成績はトップクラスを争うようになる。そして35年もの月日が流れ、のび太は日本を代表するロボット学者になっていた。

その日がやってきた。のび太と結婚していたしずかは、それまで危険だから入ってはいけないと言われていた部屋に呼ばれる。そこでしずかが見たものは、懐かしいドラえもんの姿だった。のび太がスイッチを入れる。するとドラえもんが再び動き出し、のび太に向かってこう言った。

「のび太君、宿題は終わったのかい?」

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ここに一冊のカレンダーがある。これはセブンイレブンで買った来年のドラえもんのカレンダーだ。上段にはドラえもんのキャラクターが書いてある。その6月には、雨の中「もらってください」と書かれたダンボールの中にいる3匹の捨て猫に優しく傘を置くのび太と、さらにそんなのび太に自分の傘を差し伸べる優しいしずかちゃんの絵が描かれている。この6月だけでなく、ドラえもんとのび太が一緒にふとんで寝ている11月、二人が一緒に背中合わせで寝ている裏表紙もいい。この一冊が、なぜ多くの人が「ドラえもんの最終話」に魅かれたのかを物語っているように思える。
http://www.7andy.jp/books/detail/-/accd/32149752
http://yaplog.jp/erisama/archive/1485

日本の著作権法は、その法体系が大陸法(Civil Law)系に由来し、英米法(Comon Law)系の著作権に比べると著作権者に強い権利を認めている。しかし、あまりにもその権利を著作権者に強く認めすぎると、社会全体の創作意欲を低下させてしまうのではないか。

日本語の「学ぶ」という言葉は「真似る」からきていると言われる。先人の知恵を拝借し、それを進化、発展させることも重要なことだ。常に全てを新しく考案することは現実的に不可能だろう。一方で、新しい考案や進化の労苦に報いることは絶対に重要だ。著作権法は、その第1条で「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」としている。どこまで著作者の権利を認め、どこまでユーザーの自由を認めるのか。もっと国民の関心と議論が必要だと思う。

そして最も重要なことは、なぜかくも多くの人が「ドラえもんの最終話」に魅かれたのかを考えることだ。最近は信じられないほど残酷な事件が続いている。コストばかりが優先され、ヒトがヒトを大事にしなくなっている。だからこそ、多くの人が純粋なドラえもんやのび太の友情や優しさに魅かれたのではないだろうか。

ドラえもんの最終話事件は、実に様々な重要な議論を提示している。


「ドラえもん』最終話、勝手に出版した男性が謝罪(朝日新聞)2007年05月29日
http://www.asahi.com/culture/news_entertainment/TKY200705290047.html

http://www.nurs.or.jp/~ike/final_dora.htm

「日本版フェアユース規定」の導入を提言、知財戦略本部の専門調査会 (Internet Wotch 2008年10月28日)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/10/29/21355.html

デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告案に関する意見募集
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/pc/081030/081030comment.html

著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム
http://thinkcopyright.org/

日本国著作権法
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%98%8d%ec%8c%a0%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S45HO048&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

日本国不当競争防止法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO047.html

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