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船中八策 (3) ~翼~ JAL再建の行方 

(1)法的整理と年金問題

一般的に「倒産」とは、返さなければいけないお金やその類を返せなくなる状態のことを言う。法的には、破産、特別清算、民事再生、会社更生の4点の手続開始に分けられる。

このうち、破産と特別清算は会社そのものを消滅させることだ。長らく日本では「倒産=会社の消滅」というイメージが強かった。これは後述する会社更生と民事再生がなかったからだ。会社更生と民事再生はともに再建型倒産手続と呼ばれ、債務等を法的に整理した上で、その企業の再出発を図ろうとするものだ。

会社更生と民事再生の大きな違いは、会社の経営と債権者の権利行使にある。会社更生を適用申請すると、裁判所から管財人が選任され、以前の経営者は経営に参画できない(詳しく言うと、適用対象が「特別手続」、手続形態は「管理型」)。一方、民事再生では以前の経営者がそのまま経営を続けることが可能だ(適用対象が「一般手続」、手続き形態は「DIP型」)。一番の大きな違いは会社更生の場合、債権者がその担保(お金を受け取る権利)を競売にかけるといった権利行使ができないが、民事再生の場合は可能なことだ。

JALは既に「倒産」状態にある。報道によると、JALの債務(借金とその類のこと)は現時点で8,000億円を超えるとされている。JALの債権者は、日本政策投資銀行、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行といったメインバンクに、大企業等の大口株主、個人株主、さらに問題の年金を受け取る権利を持つOBや現役のJAL社員などがいる。当初、JALは自力で私的整理の「事業ADR」でカタをつけようとしていたが、それでカタが付くほどJALの債務は小さくない。
(出所)日本経済新聞 2010年1月9日 Q&A 日航株、更生法でどうなる?
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt254/20100108AS2D0802808012010.html

政府が会社更生の適用に傾いたのは、現経営陣の責任を問い、管財人が全資産の管理を行うことができるからだ。しかしまだ問題は残る。最も難題とされる年金問題である。会社更生を適用申請しても、年金は更生債権として弁済される可能性が高いからだ。09年3月時点で8,010億円、積み立てて金は4,315億円、差し引き3,315億円が不足している。
(出所)「週間ダイヤモンド」2009年11月7日号 

JALは退職者の年金に対して年率4.5%と言われる高利の利率を約束している。報道ではよくこの「4.5%」という数字がやたら強調されるが、利率を1.5%へ削減しても年金債務の3,315億円が完全に無くなるわけではない。年金の元金部分は憲法が保障する私的財産権なので、JALを会社清算しない限り公的資金(要は税金)の注入か主力銀行の債権放棄に頼らざるを得ないだろう。

これに加え、8つもある労働組合の問題がある。労働組合は労働者の権利を守るための重要な組織だ。しかし、会社の経営があまりも傾いている場合、労使が協力しない限り問題解決はあり得ないだろう。

2010年1月9日のJALの株価の終値は67円である。明日の1月12日に大幅に下落してしまう可能性がある。1月19日に会社更生法の適用を申請すると報道されており、それまでに株価がさらに下がる恐れがある。上場廃止も噂されている。会社更生法適用後には100パーセントか99%程度の減資が行われる予定だ。株券が紙くずかそれに近い形になってしまうかもしれない。

(2)マイレージ
JALのマイレージは保護されるようだ。マイルを持っている人も債権者になるので、理論的には債権者集会に参加できることになる。しかし、これを認めてしまうと何百万人という人が集会に参加し、議論が紛糾してしまう可能性がある。よって、マイルは保護するが債権者集会には参加できない、ということになるだろう。但し、会社更生の適用申請後、現在のJALマイレージプログラムは大幅に改訂されるだろう。具体的には、航空券に換えるのに必要なマイルが現行よりも多くなる、ということが考えられる。更に現在マイレージ会員向けに多くのキャンペーンが行われているが、これらは会社更生の申請以降はどうなるかまったく未定だ。続けられるかもしれないが、すべて中止されるかもしれない。気になる方は、19日と報道されている会社更生の申請以前に何らかの行動をしておいた方がいいだろう。

本来のあるべきマイルサービスの姿は、乗ってくれた客にポイントを付与し、何回か乗ってくれたらグレードアップまたは無料で1回乗れる権利を与える、というものだろう。その好例として、JR東海道・山陽新幹線の「エクスプレスグリーンプログラム」が挙げられる。このサービスは、エクスプレスカード会員向けに乗車毎にポイントを付与し、規定のポイントを獲得すると普通車の料金でグリーン車が予約できる(要はアップグレード)というものだ。無料で一回乗れるという航空会社では当たり前のサービスをJRは実施していない。これは、無料乗車券の経営へ与える影響を考えてのことだろう。また、「エクスプレスグリーンプログラム」はポイントサイトとの連携も少ない。
http://expy.jp/service/green/index.html

無数のポイントサイトと連携し、飛行機に乗らない人にもマイルが付与される現状のサービスは、よく吟味した上で本来の方向へ戻していくべきだろう。その代わり高すぎる航空券代を引き下げなければならない。また、現在は3年間となっているマイルの期限は短すぎる。これは、ユナイテッドのマイレージサービスが参考になるだろう。
http://www.saisoncard.co.jp/lineup/ca041.html

(3)イールドマネージメント 

JALの業績がANAに比べて悪いことは、財務諸表を見れば一目である。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091207/211270/
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091207/211270/

利益を改善する有効な方策が、「イールドマネージメント」と呼ばれるものだ。イールドマネージメントとは、ホテルや航空会社のように、商品・サービスを在庫として繰り越すことができない産業において用いられるマーケティング戦略のことである。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20070202/260501/
http://www.geocities.co.jp/HeartLand/3999/rm/rm1.html

航空産業の場合「一席あたりいくら稼ぐ」のかを示す以下の指標が用いられる。

客単位収入(旅客収入÷座席キロ)×座席利用率(旅客キロメートル÷座席キロメートル)=座席単位収入(旅客収入÷座席キロメートル)

2008年度の座席単位収入は、JALが8.8円、ANAが10.8円となっている。
(出所)「週間ダイヤモンド」2009年11月7日号 pp48-49

この数字を改善するためには、需要予測と需要に最適化した供給量の決定が不可欠だ。具体的に言うと、過去のデータに基づいてどの路線にどのくらいの利用客があるかを予測し、需要が多ければ大型機を投入する、または中型機の臨時便を飛ばし、需要が少なければ減便するか機材を小型化して、座席の供給量を予測される需要に限りなく近づけるようにする。ANAはこれが進んでいる。これまでは搭乗率が着目されることが多かったが、これからはイールドマネージメントを駆使した「座席単位収入」が重要な指標になるだろう。

(4)機材の最適化

JALはANAに比べて古い機材が多く、今でもボーイング747(旧型)、エアバス300-600やダグラスMD-81/87/90といった旧型機を多く抱えている。ANAはすべてリプレイスされている。JALはお金がないから機材更新ができなかったのだが、これが過剰な座席の供給や燃費の悪さの原因になっている。イールドマネージメントは機材の最適利用が要である。機材の更新も、JAL再生の大きなポイントになるだろう。

(5)ワンワールドとスカイチーム

私はかねてから日系航空会社の国際線が2社も必要なのか疑問に思ってきた。ANAに統合してもらった方が良い気がするが、ANAの国際線部門も長年成績が芳しくないことを考えると、海外航空会社と組んだほうが得策に思える。

世界には、スターアライアンス、ワンワールドとスカイチームの3つの航空連合が存在する。

(スターアライアンス)
・ユナイテッド
・シンガポール
・ANA
・コンチネンタル
・ルフトハンザ
・タイ国際
・中国国際など計25社
http://www.staralliance.com/en/

(ワンワールド)
・英国航空
・アメリカン
・JAL
・カンタス
・キャセイ・パシフィックなど計11社
http://ja.oneworld.com/enja/

(スカイチーム)
・デルタ
・ノースウエスト
・エールフランス-KLM
・大韓航空
・中国南方など計9社
http://jp.skyteam.com/

現在JALはアメリカンを中心とするワンワールドに属している。JALに対し、米デルタ航空は、来年発効する日米の「オープンスカイ協定」を見据え、新規提携とスカイチームへの移行を強くアピールしている。アメリカン航空も負けじと引止めに掛かってきたが、国土交通省とJAL内部でもデルタとの提携に傾いている。今後、オープンスカイ協定は米国だけではなく、アジア・欧州を含め様々な国・地域と結ばれていくだろう。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/091212/bsg0912121301001-n1.htm
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/331783/
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204005/?nn


私はデルタ・スカイチームに乗り換えるべきだと考える。理由はデルタが過去に日本の民事再生法に相当するチャプター11を適用申請したことがあり、航空会社の再生に関するノウハウがあること、日本ー米国間の太平洋路線に圧倒的なシェアを持っていること、アジアに「以遠権(beyond right)」を多く持っていること、既に提携関係にあるエールフランス-KLM・大韓航空がスカイチームにいることが挙げられる。
http://www.jal.co.jp/jalcargo/shipping/mame/362.html

日本-アジアの以遠権を多く持っているのがユナイテッドとデルタ(ノースウエスト)の2社だ。ANAはユナイテッドとコンチネンタルと組んで、日米アジア路線でその地盤をさらに固めようとしている。アメリカンは、太平洋路線のシェアが6%しかなく、以遠権もないに等しい。また倒産したことがなく(本来は立派なのだが)、企業再生のノウハウに乏しい。さらにワンワールドのメンバーはどこも成績が振るわず、JALに構っている余裕はないだろう。よって、現在以上の提携効果は期待できない。デルタ・ノースウエストの以遠権を生かして運賃やコストの共通化を図った方が、JALには大きなメリットがあるだろう。

JALは、日米のオープンスカイ導入後の国際線戦略、航空燃料の共同購入による単価の引き下げ等、アライアンスの旨みを最大限享受する戦略を取らなければならない。長らく国際線の開設が認められなかったANAは、1999年にスターアライアンスに加盟し、その旨みを最大限享受してきた。イールドマネージメントにしても早くからその重要性に着目して自社に導入できたのは、スターアライアンスの中核メンバーの位置を占めてきたことが大きい。それらを国際線だけではなく国内線戦略にうまく生かしている。一方、JALがワンワールドに加盟したのは2006年である。自前主義にこだわりすぎ、燃料の購入にしても高い為替レートで長期契約してしまうなど、アライアンスの旨みを生かしきれていない。もはや一社で全てを賄う時代は終わったのだ。それなのにJALはおかしなプライドとエリート意識を持ち続け、時代に取り残されてしまった様に見える。

経営危機は、見方を変えれば自らを変えることができる最大で最後のチャンスである。こんな状況下でも誠実に働く従業員がいっぱいいる。彼ら/彼女らが安心して働ける環境を創出し、安全で快適な空の旅を顧客に提供することが最も大事なことだ。


日本航空
http://www.jal.co.jp/
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