船中八策(1)~空~ 「ジャパン・パッシングを回避せよ」 

成田パッシング

岡山県にある岡山空港は、山間にある典型的な地方空港である。ここから欧州のパリまで日系の日本航空(JAL)か全日空(ANA)で行くとなると、岡山-成田線は存在しないので一度羽田へ飛び、荷物をピックアップしてからリムジンバスか電車で成田へ向かい、再度チェックインしてパリへ向かうことになる。

一方、大韓航空で韓国の仁川(インチョン)国際空港まで行ってパリ行きへ乗り継ぐ方法だと、一度荷物を岡山空港でチェックインしてしまえば、パリのシャルル・ド・ゴール空港まで再度荷物をピックアップする必要がない。さらに航空券も日系の航空会社よりも安い。現在、このように地方空港から外国の航空会社を使って海外へ直接向かう人が増えている。いわゆる「成田パッシング」と呼ばれる現象だ。

羽田と成田

戦前に小さな飛行場としてオープンした羽田空港は、東京オリンピックの際に国際化され、長く日本の空の玄関口として機能していた。しかし、増え続ける航空機の量に発着枠が不足していく。当時の運輸省が計画したのが新空港の建設だった。最終的に選ばれたのが千葉県の成田市だった。

しかし、地元への十分な説明がないまま国は工事を強行し、住民と過激活動家の激しい抵抗に合う。その結果、滑走路が1本しかない状態が続いた。何より不便なのは、東京都心から遠いことだ。リムジンバスを利用しても1時間程度かかり、開港してから長く鉄道はターミナルへ延びていなかった。1989年に当時の石原慎太郎建設大臣(現東京都知事)が空港アクセスの改善を命じ、やっと空港ターミナルまで鉄道が延ばされた。

羽田と成田の一体的運用

アクアラインを目指して首都高速神奈川川崎線を走ると、左手に大きな工事中の建物が見えてくる。羽田空港の新しい国際線ターミナルビルと、4本目になる新D滑走路の完成である。2010年10月、日本の空が大きく変わる。

「深夜羽田発」で欧米へ!?2010年、羽田空港はこう変わる
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20090917/1028899/

国土交通省は、来年秋の羽田空港再拡張後、羽田と成田を「一体的に運用する」と言っている。羽田は数少ない24時間稼動できる空港だ。6時から23時までの国際線は成田空港を使い、地元住民との協定で使用できない23時から6時までを羽田空港を使うことになる。

昼間の時間帯の海外便は、中国・韓国・台湾の3カ国/地域だけとしている。昼間の羽田発着便は成田発着便と競合するため、航空券が割高になると言われている。成田が使えない深夜早朝は以下の路線が就航する予定だ。

(欧州方面)
・イギリス
・ドイツ
・フランス
・オランダ

(アジア方面)
・台湾
・中国
・韓国
・香港
・タイ
・シンガポール
・マレーシア

(アメリカ方面)
・アメリカ
・カナダ線
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20090917/1028899/?P=2

羽田が再国際化されると、前述の「成田パッシング」の低下が期待できる。羽田と成田間を移動する必要がなくなるからだ。後は航空券の価格がいくらになるかが重要だが、これには日本の航空行政にも関わる根深い問題がある。

日本の空港

定義と実際の運営にもよるが、現在日本には約103の空港が存在する。

① 拠点空港 : 新東京(成田)・東京(羽田)・中部・関西空港
② 政令で定められている空港 : 大阪(伊丹)空港等
③ 地方管理空港 : 神戸空港等
④ 共用空港 : 自衛隊・在日米軍と共同で使用(那覇空港・三沢空港等)
⑤ その他の飛行場
http://www.mlit.go.jp/koku/04_outline/01_kuko/01_haichi/index.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%A9%BA%E6%B8%AF

「社会資本整備事業特別会計」と「空港整備勘定」

2008年4月より「社会資本整備事業特別会計」が創設された。これは、それまで独立していた「空港整備特別会計」、「道路整備特別会計」、「港湾整備特別会計」、「治水特別会計」と「都市開発資金融通特別会計」を統合したものだ。
http://www.mlit.go.jp/common/000032604.pdf

「空港整備勘定」はこの社会資本整備事業特別会計の一つである。平たく言えば、国が管理する全国20の空港の収入を同じお財布で管理し、都会の空港の黒字分で地方空港の赤字を埋め合わせたり、新しい空港を作るための仕組みをいう。以前の「空港整備特別会計」の流れを汲むもので、実態は何も変わらない。

空港整備勘定は、航空機が着陸する度に航空会社に課せられる「着陸料」が主な財源だ。日本の各空港の着陸料は世界で最も高いグループに入る。この巨額の着陸料がJALだけではなくANAをも苦しめてきた。特に高額とされる関西国際空港からは、JAL・ANAとも多くの路線を撤退させようとしている。

「ジャパン・パッシング」

一部の外国の航空会社は、着陸料の高さと成田空港の発着枠の少なさを嫌って日本線を減便または撤退し、韓国の仁川空港や香港のチャプラップコック空港、中国上海の浦東(プートン)国際空港にリプレイスする動きがある。

来年にはGDPの総生産額で中国が日本を抜くと言われている。日本は、世界第二位の経済大国の位置を奪われ三位に転落する。日本の魅力そのものが低下しつつあるのだ。その証拠に、アメリカやオーストラリア、韓国やタイでは、日本語の学習者や大学の日本語学科が減少し、代わりに中国語・中国語学科が増えている。言わば、「成田パッシング」が「ジャパンパッシング」へと発展しつつあるのだ。

高い日系航空会社の運賃

日本の多くの若者は高いJALとANAに乗らない傾向がある。JTBの格安航空券のサイトを調べてみよう。東京-シンガポールを検索してみると、一番安いのがベトナム航空で22,800円、米系でノースウエストが32,000円、ユナイテッド(UA)が36,000円、私が好きなシンガポール(SQ)航空は48,000円である。一番安い日系の航空会社はANAで57,400円、JALにいたっては70、000円もする。これでは若者は乗らないだろう。
http://ovs.jtb.co.jp/air/SearchList.aspx?depaptj=TYO&arraptj=SIN&fl=1&dt=20091011&seat=0&ib=1&spnl=1&dtback=20091018&tt=0

ANAはJALに比べてはるかに努力しているが、こう比べるとまだ高い。せめて4万円ジャスト、理想ではUAと同じくらいの3万円台後半にならないと、選んでもらうのは難しいだろう。


航空行政と路線戦略の見直しへ

現代の世界の航空市場では「ハブ&スポークシステム」と呼ばれる路線の組み方が主流である。これは、拠点空港(ハブ空港)を設定し、全ての地方空港便はハブ空港と結ぶようにする運行形態のことだ。地方空港間便をも飛ばす運行体系を「グリッドシステム」と呼ぶが、これでは多くの機材と人員が必要になり非効率だ。

日本で堂々としたハブ空港の資格を持つのは羽田空港だ。羽田を中心に運行体系を組み変え、成田・関空は補助的な役割とすべきだ。さらに他の交通網との兼ね合いを考え、十分代替手段を講じた上で幾つかの空港を廃港すべきだ。例えば関西には関空・神戸・伊丹と3つも空港があるが、これは明らかに無駄である。リニアモーターカーの開通時期にもよるが、東京ー大阪間の移動はリニアモーターカーと高速バスにリプレイスされ、伊丹空港はその存在価値を失うだろう。「なにわ筋線」等の大阪市街地と関空との高速交通網の整備を今から進め、関空を戦略的に運用しておいた方が将来において得策である(詳しくは別記する)。

航空会社は、機体の運用面も再考する必要がある。JALもANAも国内線と国際線の機体を厳密に分けており、非常に非効率だ。国際的に見ても国内線と国際線の機体を厳密に分ける運用法は珍しい。例えば福岡空港から1時間20分西へ飛び続ければ上海へ着く。少し方向を変えれば韓国・仁川空港はすぐだ。これら近距離路線は国内線の機体で十分だろう。また、機体の選定にも再考の余地がある。ジャンボジェット機が国内線を飛ぶのは日本くらいだ。路線・曜日・年中行事毎に、よりきめ細かく充当する機体を考慮すべきだ。路線によっては、需要を鑑みて別記するMRJ(ミツビシリージョナルジェット)のような中小型機にリプレイスしていくことも必要だ。国は、各航空会社に導入費用をバックアップすることも必要だ。

天下り法人の撤廃

成田空港は公団が民営化した成田空港株式会社(NAA)が滑走路、ターミナルビル、さらに駐車場を一括して管理している。一方、羽田空港はターミナルビルが日本空港ビルディング、駐車場が財団法人・空港環境整備協会、そして滑走路が国の直轄管理と分かれている。この空港環境整備協会は、典型的な国土交通省の天下り先である。駐車場の運営も滑走路の管理も日本空港ビルディングに一元管理させ、それらの収入を着陸料の減免に当てるべきだ。

飛行機には安全が最も重要なことは言うまでもない。安全性や言葉の面から、日系のキャリアの需要は高い。色々な人が風評を立てるが、私の経験上、ANAもJALも安全性やサービスレベルはきわめて高い。ANAは特に素晴らしいが、JALだって言われるほど悪くない。問題はその航空券の高さにあると言えるだろう。

羽田を空港整備勘定から抜くのは、現実的に難しいだろう。魅力ある地方の発展も必要だ。しかし、政治家が票稼ぎのために赤字覚悟で新しい空港を作り、公共工事を創出して選挙に繋げ、官僚は天下り先を確保するというやり方は、とうに時代遅れだ。先に述べたとおり、中国の台頭により日本の国際競争力が相対的に低下してきている。このまま黙っている訳には行かない。ジャパン・パッシングなど絶対に回避しなければならない。

羽田の再国際化を契機に、戦略的な航空行政と経営が求められている。


(参考文献)
週刊東洋経済「エアポート&エアライン」 2008年7月26日号

日経TRENDY「すべて見直せ!旅行術」2008年3月号 

日経TRENDY「ニッポンのメガトレンド」2009年10月号

航空輸送統計年報(国土交通省 統計局)
http://www.mlit.go.jp/k-toukei/search/pdfhtml/11/11200700a00000.html

空港管理状況調書(国土交通省 航空局) 
http://www.mlit.go.jp/koku/04_outline/10_data/03_kanrijoukyoucyousyo/h18.pdf

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%A9%BA%E6%B8%AF

テーマ : 政治・経済・時事問題 - ジャンル : 政治・経済

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